AREA[エリア]POLIS[ポリス]SOFAS[ソファーズ]roche bobois[ロッシュボボア]などのインテリアブランドを展開するCROWN Co.の代表(野田豪)が日々考えるインテリア業界のあれこれや私小説をお届けします。
2015年3月31日火曜日
ある水楢の話
彼らの血が私の幹を洗った時、私は体を大きく捻って慟哭した。私はこれ以上、自分の為にも誰の為にも葉や花をつけることはないだろう。
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昔々北海道の山奥に大きな水楢(ミズナラ)があった。
私はもう自分でも忘れてしまうくらいたった一人でそこにいた。緑の丘にポツンと大きく聳える私の側にはいつも熊や栗鼠や鳥たちが集まってきた。だからまったく寂しくはなかった。晴れの日も嵐の日だって私は毎日が幸せだった。そしてさらに幾星霜の時が流れた。ある日どこからか見知らぬ動物がやってきた。熊のような力もなく栗鼠のように速くもなく鳥のように空を飛べないが非常に賢い動物のようだった。彼らは自分たちのことを人間(アイヌ)と呼んだ。
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アイヌは彼の足下に古潭(コタン)(アイヌ語で集落)を開いた。彼らは私を含めて自然のものすべてに心があると言い、大地と空が所有するものはすべてカムイ(信仰すべき対象)と呼んだ。彼らはよく笑ったり泣いたりした。私はそれを少し羨ましく思った。私は笑ったり泣いたりできないからだ。彼らは道具というものを使った。その便利な様子は目を見張るものがあった。ただ私は彼らの道具のうち火というものがとても気がかりだった。便利であると同時に危険だと感じたからだ。
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いつの間にか私はアイヌが好きになった。彼らは時に喧嘩もしたが、大抵静かで慎ましく暮らしていた。私は特にキサラという女の子が好きだった。彼女は訳あって私の足元で生まれた。耳がちょっと前を向いた可愛らしい女の子だった。足が速くていつも村で一等賞だった。彼女の両親は春が来るたびに私の幹に額をあてて彼女の健康を祈った。そしてもう一人。アシリという男の子。彼は小さい頃から敏捷で歌を歌うのがうまかった。よく私の枝の下で自慢の歌を歌ってくれた。とても恥ずかしがりやで無口だったが、決断力の早さと、ここ一番の度胸はコタンで一番だった。
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だから私は2人の祝言が本当に嬉しかった。村長がアシリを次の長だと紹介した。アイヌたちは沸き上がった。盛大な結婚式だった。キサラはずっとちょっと前に向いた耳を赤くして嬉しそうにうつむいていた。私は生まれて初めて笑った。愉快な気持ちとはこういうことなのだ。私はお礼に大盤振る舞いでいつもより多めに緑の葉を落としてキサラとアシリを祝った。鮭や熊の毛皮や鷹の羽が振る舞われた。誰かが私に隠れてそれを見ていた。アイヌの格好はしていたがアイヌのようには見えなかった。私だけがそれを知っていた。胸騒ぎがした。
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その日は突然にやってきた。
夜、気づくとコタンが悪魔のような炎に包まれていた。
火だ!
火だ!
アイヌが逃げ回っていた。影のようにアイヌではない人間が彼らを追い回していた。長い刃物で一人一人をなぎ倒して行く。誰かが松前藩とかシャモ(和人)とか叫んで彼らに素手で向かって行った。相手にならなかった。すぐに組み伏された。彼らの行動は規律的に統制されていた。かないっこないのは私にでもわかった。家から飛び出た子供たちが泣き叫んでいた。その子たちは一人一人シャモに抱えられ連れ去られて行った。私は戦慄した。誰かが私を指差した。アイヌのみんなが私に向かって逃げてきた。恐慌に陥った人たちの衝動だった。私の足下に来ればカムイに守られると思ったのだろう。何もできはしない。私にそんな力はない。しかし・・私は思った。早く来い。葉を落とすくらいしかできないが、それでも少しでも何かの力になりたいと思った。敵味方入り交じった大きな集団が私に向かって走ってきた。その渦の中心にキサラとアシリを見つけた。アシリは大声でアイヌのみんなに指示を出していた。一カ所に固まるな、バラバラに逃げろと。キサラはアシリに守られるようにして走っていた。キサラ、キサラ、お前は村で一番足が速いはずだ。私の後ろから森が広がる。そこにまぎれれば生き延びることが出来るはずだ。
速く
速く
がんばれ!
もっと速く
もっと速くだ!
がんばれー!!
その時アシリが前のめりに倒れた。流れた刃が腰にあたったようだった。キサラが振り返って悲鳴をあげた。自慢の足を止めた。止めてしまった。私は生まれて初めて泣いた。泣きながら叫んだ。
あー。
だめだだめだー。
止まっちゃだめだー。
キサラは泣きながらアシリを助け起こそうとする。アシリも懸命に立ち上がろうとするが、よろめいて再び崩れ落ちた。江戸から来た支配者たちが彼らに群がった。
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夜が明けた。
私の足下でキサラとアシリが手を握って倒れていた。
アシリはもう二度と歌えない。
キサラの可愛らしい耳が赤く染まることも二度とない。
私の体からすべての葉が落ちていた。
私は意識を閉じた。
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昔、とある人に北海道産ミズナラの一枚板の接客をした時、こう言われたことがある。「よく勉強しているね。でも我々に取ってミズナラというのは悲しい言い伝えがある。いわゆる[葉をつけぬ木]の話だ。できればそれを伝えて欲しい」そこで知ったのがシャクシャインの戦い(1669)とクナシリ・メナシの戦い(1789)だ。その後調べれば調べるほど和人とアイヌの凄惨な話しが出てきた。こんなエピソードを語ったら売れるものも売れなくなる。たぶんその人はアイヌだったのだろう。彼の気持ちも分かる。でも僕は歴史家ではなく一介の家具屋だ。この世には話さなくてもいい話ってのがあるんだ。当時はそう思った。
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木の寿命は長い。人間が窺い知れない景色をたくさん見てきたはずだ。僕らはプロだから木裡の具合から、ああ、ここで寒波が来たなとか、これは明らかに人が背比べをした跡だなとか、さまざまなことを見て取れる。それらをキチンと伝えて、一生もののテーブルとして使ってもらうのが仕事として正しいのだ。「きれいな情報だけではなく、その木のありのままの全てをできるだけ汲み取って、背景の歴史も含めて語って欲しい」あの時彼はそう言った。今はその気持ちが少し分かる。キサラ(かわいい耳)とアシリ(新しい若者)の話は完全に僕の創作だが、もし本当にそんな背景があったとしたら、今の僕なら、それを伝えようと思うだろう。それで売れ残ったっていいじゃないか。そうしたら最後は自分で使うよ。
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あとちょっと主旨的には的外れかもしれませんが、
僕は戦争反対です。
どんなことがあってもです。
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どれだけ長い間眠っていただろう。目を開けると、私はいつもの大地に立っていた。見慣れない服を着た人間が私の下で食事をしていた。誰かが誰かを呼んでいるちょっと甘えた優しい声。
「おかあさーん、見て見て」
耳がちょっと前に向いた小さな女の子がはしゃいで言った。足下に優しい熱を感じる。
「あーホントだ。葉っぱがついてる」
賢そうな瞳を持った男の子がその女の子の横でピョンピョンと跳ねて手を叩いている。
父親が近寄ってきて私を見て驚いた顔をした。
「この木は長い間、葉も花もつけなかったはずだがな」
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私は・・。
手をつないで私を見上げる男の子と女の子をじっと見つめたあと、ふいに空を見上げた。
青く青く高い空がどこまでも続いていた。
2015年3月30日月曜日
春の日のポルシェ
リアルでもネットでもお店と名のつく所が一番苦労するのが集客です。良い商品を置いても誰も来ないのでは商売になりません・・。だから今日も僕らは集客に一生懸命。今回ご紹介するのは僕らがかつて行ってきた千を越える集客施策、その中でもあれは奇策だったなぁと思う一つです。
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とある月曜日
僕「次のチラシどうする?」
2005年。
念願の東京・青山進出を果たした僕ら。ここ青山で、AREA Tokyoは破竹の勢いで大成長をしていた。
生田「最近マンネリ気味ですね」
僕「ちらしの内容はマンネリ安定でいいと思うな。まだブランドイメージ安定してないから。ホームページの方でいろいろ試しているし」
生田「じゃあギミックですかね」
僕「ギミックだなぁ」
広告は大筋の内容もさることながら、詳細部分のギミックの出来が集客量を決める。例えばソファフェアを行うとして、ご購入いただいたら何かプレゼントするとか・・そういうやつだ。
生田「とは言え、ウチはよそと比べてあんまり粗利をとってないから、広告経費はかけられませんが」
僕「プレゼントやSALE以外のギミックか」
生田「ですね」
僕「うーん」
生田「整理しましょう。まず内容はいつも通り。ギミックで集客量を増やす。かと言って、ウチの顧客層をピンポイントで狙いたい」
生田はいつも冷静だ。
僕「ウチの顧客層・・今後狙って行きたいのは」
生田「芸能人とか?」
芸能人でなくとも社会に対して影響力のある人。その顧客層はブランドを作る上で欠かせない存在だ。ご購入頂いた上に、強力な口コミの期待ができる。
僕「芸能人割引とかかな」
生田「・・・・・」
僕「・・・・・あれ?ダメ?」
生田「芸能人はフェラーリに乗っています。そして毎日忙しい」
僕「えー?そこ?」
生田「わかった」
僕「え?なになに?」
生田「24時間営業にしましょう。なーんて」
僕「・・・・」
生田「?」
僕「それだ・・」
深夜対応。聞いたことがある。ヴィトンだったかな。深夜にある女優がマネージャーにお店を開けさせたって話。そうだよ営業時間を伸ばせばいいんだ。人件費との費用対効果の問題をクリアするなら、予約制にすればいい。そして、住んでいる所がお店に近い人が対応する。
僕「お店に一番近いのはだれだ?」
生田「あきらかに社長ですね」
僕「ん?・・そ、そうか」
そんな勢いのまま僕らはチラシ作りに突入した。
僕「でな、さっきの話なんだけど」
生田「はい?」
僕「フェラーリ」
生田「ああ」
僕「駐車場あります の横にイラストでアイコンを入れよう」
生田「了解」
出来上がったラフ。(添付写真)
open everyday
ordinary 11:00~20:00(通常営業時間)
reservation20:00~24:00(完全予約制)
(イラスト) 駐車場3台有り
僕「(イラスト)これ何?」
生田「フェラーリです」
僕「なんか・・俺には平べったい染みにしか見えないのだが?」
生田「フェラーリですって」
僕「そ、そうだけどフォルムが分かりにくいというかだな・・」
生田「・・・・赤くしますか?」
僕「赤い染みになるんじゃないかな」
生田「車変えましょう」
結局、ポルシェにしてチラシが出来上がった。
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さて結果はどうだったか。
まず深夜予約制は時々効果があった。中でも金融界のNさんと医療系ファンドの大物Sさんは今でもお付き合いがある。
Nさん「いや、当時あのチラシをみた時、気合いの入り方がすごいなと思いましたよ。なんだこの家具屋、なにかがあるぞって」(最近の談)
また、ある若手女優さんが利用してくれて、その口ききにより、その後AREA Tokyoを使った「TVロケ撮影」という一つのビジネスポケットを作るに至った。
僕らはいつも一生懸命だった。不格好って笑われてもいいから、一生懸命やろう。エネルギーはもったいぶらずに全部出そうっていつも仕事をしていた。だから奇策も出るよ。でも時が経つと、こういう話がすごく愛おしくなるな。いや、懐かしがってる場合じゃないんだ。なぜなら僕らは今日も一生懸命奇策を出し続けているのだから。
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そうそう、ポルシェの話。
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桜舞うおだやかな春の日曜日。
キュキュッ。
一台の車が店前に停まった。
何気なく外を見た僕と生田が戦慄した。
生田「ポ、ポルシェが」
僕「本当に来た」
続いて2台目。
僕、生田「・・・2台来た」
お店に横付けされた2台のポルシェ。
僕は今でもその光景を覚えている。
生まれて初めて背中がぞわっとした感覚とともに。
2015年3月28日土曜日
僕らがお客様に伝えたいこと
2015年。
今年も4月から新入社員が入ってくる。
新人教育のスケジュールを立てよう。
そう思ってデスクでPCを開いた。
名刺の渡し方から、接客の方法論まで。
何を作るか、どのように販売するか。
僕らがお客様に一番伝えたいこと。
それを新入社員に伝えなくてはならない。
キーボードを叩く手が止まる。
「一番伝えたいことな・・」
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僕らのルーキー時代。
僕らは茅ヶ崎の一号店に続き、その半年後に二号店を鵠沼に出した。江ノ島まで歩いて数分という海の街。その小さな小さな商店街の精肉店跡地に50~80万もする高級ソファを並べた。今考えたらよくあんな暴挙ができたものだ。
とある2月の最終日。
僕らは困っていた。今日何かが売れなければ今月の店舗家賃が払えない。「大丈夫。今日は土曜日だし、今日ご来店される予定の見込み客もいるし、なんとかなるよ」威勢良く言ったものの、所と佐々木はどんよりした顔をしている。
pm3時。
見込み客Aさんから電話
「ちょっと用事ができちゃってさ、明日行くよ」
pm5時。
見込み客Bさんからのメール
「雪が降ってきそうだから、明日おじゃましますね」
雪・・だと?
顔を上げて外を見た。
窓の外が不吉にどんよりしていた。
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豪雪の海の街。
pm7時。
雪がどんどん積もって行く。
3人で呆然として眺めた。
所「店長ドア閉めましょう」
僕「だめだ。あと俺はもう店長じゃない社長だ」
佐々木「だって社長・・寒い」
僕「来るから、きっと誰か来るから」
所「だって・・こないよ」
所が正しい。商店街はどこも早じまい。
いつもたくさんいる野良猫すらいない。
「家賃が払えない」
僕がつぶやく。
三人で無言になった。
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pm8時。
閉店時間。
その時、
バーンッとドアを開いて
一人の紳士が入ってきた。
「い、いらっしゃいませ」
(あわわわわわわ)
(ホントにだれか来た)
(神様だ)
(奇跡だ)
後ろで2人がひそひそ話している。
「寒い中ありがとうございます」
黒くて艶々したコート。
高そうなハットを目深にかぶっている。
紳士は雪をパタパタ払いながら、
太いバリトンで僕にこう言った。
「これをもらえるかな」
紳士が指をさした商品をおずおず見る。
88万のソファ。
「明日客が来るんだが、
応接間のまに合わせに必要なんだ。
駅前の量販店がもう閉まっていたから
これでもいいかと思ってね」
まに合わせ?
これでもいいか?
すごく引っかかった。
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僕らがなぜ高価な家具を作って売るのか。
「素材」と「作り」を妥協したくないからだ。
デザインも大事だ。
しかし、
良い素材を使えば一生ものになる。
そしてそんな素材を使って、
腕のいい職人が作れば、
家具は時を越えて人を幸せにする。
それはブランド戦略の以前の話だ。
売ればいいってモノじゃない。
もちろん量販店が悪いわけではない。
でも僕らとは切り口がまったく違うんだ。
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「今日運べるかな」
「えーと。お客様。」
僕はカラカラになった口を開いた。
「今日僕らで運びます。でもその前に
このソファについてお話をしてもよろしいでしょうか」
「話?」
「あの、素材と作りの話を・・」
「いらん」
「はい、いらん。へえ?」
お百姓さんみたいな返答になった。
しどろもどろになっていたら、
その紳士が踵を返した。
「もういい、いらん」
早かった。引き止める間もなく、
紳士はお店を出て行ってしまった。
「ん?」
僕は接客用の笑顔のまま、ゆっくり後ろを振り向いた。奥から顔を出して覗いていた所と佐々木が丸く口を開けていた。
「え?」「ん?」
「あれ?」
所「家賃が逃げた・・」
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新入社員に一番伝えたいこと。
それは販売店としていくら売るかではない。
「何をどのように売るかだ」
素材と作りに妥協をしない。
そうしたらモノの値段は必然的に高くなるよ。
でもね、
値段を語る前に
なぜこの素材を使っているのか、
どのような作りになっているのか、
それを一生懸命伝えようよ。
お客様の予算の10倍だって怖れちゃだめだ。
それができなかったら、
僕らが僕らである必要がないんだから。
僕らの会社はいつの間にか大きくなった。会議資料は効率性や粗利率やらで埋まっているね。昔と比べて妥協していることだってあるな。でもこういう想いだけは薄めたくない。
まあ、美談のように書いてるけど、
今思えば、あの時の僕の接客だって褒められたものではないよね。もっとスマートに伝えることは出来ただろうし、時には信念を曲げて販売しなければいけない局面だってある。店長ではなくて経営者なんだからさ。
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積もる雪に四苦八苦して、
僕らは三人とも無言でシャッターを閉めた。
僕「あのさ・・うまく言えないけどさ、
俺たちはこれでいいんだと思うんだよな」
所「なに威張ってるんですか?
プライドじゃご飯を食べられないんですよ?」
佐々木「そうだ、そうだ」
僕「ごめん。今から大家さんに謝ってくるよ」
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店の2Fの大家さん邸。
大家さんは笑っていた。
「明日、日曜日だからがんばって、野田さんの所はきっと大きくなる。だから自信持って!応援してるからね」
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2015年3月27日金曜日
AREA新店舗出します
「はい、次はここにご署名いただいて。社印ですね。ゴム印で結構です。ここに社長様の自著を。あ、あと裏に割り印を」
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表参道(みゆき通り)、ギャルソン・ビルの上で契約をしている。不動産契約だ。夏前にはまた新たにAREAの新店舗ができることになる。青山は3店舗目になる。
契約を終えて自転車に乗った。
表参道から外苑前のお店まで3分かからない。口笛を吹いて青山通りを走る。
旧フランフランの跡地にポルシェのショールームができていた。今東京はプチバブルだ。最先端の現場で体感している。
B.ブラザーズ本店の前で信号待ち。
振り返ると六本木ヒルズが威圧するようにそびえている。
イヤホンからはU2。ボーノのかすれた声。
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「全財産どころかこれだけ金借りまくってさ、この店ポシャったらよ」
13年前の自分の独り言を思い出した。
茅ヶ崎から東京に進出した当時。
AREA本店の不動産契約をした日の午後のことだ。
毎日不安で寝れなかった。
文字通り一睡もできなかった。
練りに練った理屈や戦略だと失敗する確率は60%。甘く見てもだ。
茅ヶ崎の身内からの電話にいやいや出た。
大丈夫か?
「大丈夫?なんだよ大丈夫って。
失敗?しないよ。するわけないだろ」
身内にも仲間のみんなにも必死にタフな笑顔を見せた。でも内心はガクガクで足なんて本当にカクカクだった。
建ったばっかりの六本木ヒルズがギラギラ僕を見下していた。あの頃は奴が東京の象徴のようで、怖くて直視できなかったな。
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ふと我にかえる。当社CROWNと同じ年のヒルズは今日も変わらずギラギラしている。
「不動産契約の帰りに口笛吹いてよ、
お前もえらく立派になったもんじゃねーか」
ヒルズにそう言われた気がした。
ドキッとしてうつむいた。
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「でもよ・・」
あの頃見えていなかった道筋が、今は見える。もう夢じゃない。現実の道筋と到達すべき場所だ。大勢の仲間もできたよ。みんなで世界に行くんだ。一日でも早く東京を、いや日本を卒業してやる。
そう思ってもう一度見上げると、
ヒルズはヒルズだった。
ただのビルディングだった。
信号が青に変わる。
ペダルを力いっぱい踏み込んだ。
風が吹いた。
さあ行くぞ。
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というわけで、AREAの新店舗ができます。
今回はグリーンシードさんにお世話になります。
また詳細はご報告しますね。
2015年3月26日木曜日
酒席でのビジネス作法
ある百貨店の上層部の方々と飲んでいる。大企業の上から数えて10本の指に入る人たちだ。
もうもうと煙がこめる表参道の安居酒屋。焼酎のロックは電気入ってるの?ってくらい舌がビリビリするし、野菜炒めなんて塩とバターの味しかしない。いや美味しいんだけど。美味しい?うーん・・。その昔、独立をなんとなく決意したのがこの店だった。だからかな、居心地よくて美味しく感じるのかもしれないな。まあどうでもいい話だね。
当社CROWNは、AREA(エリア)が主に三越、伊勢丹、西武、SOGO、小田急とお付き合いしていて、日頃大変お世話になっている。ちなみにSC(ショッピングセンター)はPOLIS(ポリス)の担当だ。
話は金融、円安株高、インテリアマーケットの世界トレンド、この春の人事から一年後のフロア改装まで雑々した感じで進む。ビジネスの飲みというのはお互いに用事があるからこそ開かれる。相手は伝えたいことがあるし、僕も伝えたいことがある。でもそれを最初から話したら、10分で宴は終わってしまう。大人の飲み会の呼吸というのはお互いがどこのタイミングでどんな話を挟んでくるかということに気を張ってなければならない。いやむしろそこが楽しいのだ。とっても日本的だね。
「あっそうそう、それに関係ある話なんだけどさ(微かに間があく)・・」
と来ると、あ、来たなと思う。
関係ある?・・ならあの件か。
予習していれば大抵見当がつくよね。
「・・・の件ですね?」
「そうなんだよ! どう思う?」
「(もともと考えていた妥協案)ですね」
「よし分かったそれなら話が早い・・じゃあこうしよう・・ところで話は変わるけどミラノでさ・・」
そして話がまた別のたわいのない方向へ逸れて行く。こういう楽しくもスリリングな応酬の瞬間が何回か訪れて、自然とリンゴが地に落ちるように宴が終わる。
お互い忙しいビジネスマンだもん、用事があるから飲むんだよ。でも何て言うのかな、おおっぴらにその話題を口にしない。そのへんがすごく日本的だと思うんだ。まあ、酔っぱらいながらウンウン悩みたくないしね。それをしたいなら会議室でやればいいんだよね。だからお互いに事前に成り行きを予測したシュミレーションをしておく。それが日本におけるビジネス上での飲みの作法なのだ。
ちなみにこの話の重要なポイント。それは、企業同士の最重要な話ってこんなシチュエーションで決まるケースが多いという事実だ。
不思議な話だね。
2015年3月25日水曜日
甘く危険なデザイン
春の日差しがポカポカしている代官山TSUTAYA。
インテリアや美術の棚を行き来して資料を探していた。
時々知った顔(デザイナーや雑誌社の編集長とか)を見かけると、ササッと棚の裏に隠れたり、本で顔を隠したりして逃げ回る。黒いパンツとよれよれの白いシャツだと代官山のおしゃれ族の中で逆に目立ってしまうのだな。そんなことを思いながらiPhoneでQueenを聞いている。Brian Mayのギターソロは教会の中に迷い込んだ気持ちにさせる。独特の音。ピックの代わりにコイン使ってるんだっけ。
ゴシックの照明。このデザインヒントを探している。
あたりまえだけど、当時は電球なんてないロウソクの時代なんだから、シルエットデザインは相対的にロウソクの特性がベースとなっている。シャンデリアの光源と光源の間が離れているのは近くに設置したら火がお互いのロウソクを溶かしてしまうからだ。わざわざ現代の日本に照明を産み出すのだから表面的なデザインを劣化コピーしてもしょうがない。本質を掴みたいなと思っている。
ゴシックとは「神秘死」の概念だ。飢餓やペストなどの不安に、抗うのではなく、逆に身をゆだねちゃえ! みたいな。極限で剥き出しになる人の弱さみたいなものが形になったものなのだろう。死、退廃、廃墟、ロマン。それは一見、東洋哲学の「侘び寂び」に似ているけど、ベースに再生の喜び(輪廻)がない分、とても救いがない。救いの方向が「たったひとたびの滅び」なのだ。そんなデザイン血清だけを純粋にうまく抜き出したいという気持ちがある。でもそんなの抜き出した照明・・例えばフロアスタンドなんて誰が使うんだろう。夜になって、光りをポッと灯したら部屋が神秘死で溢れる。そんなの辛い。やっぱりバニラエッセンスをたった一滴・・再生の出口を入れるべきなんだろうな。
ガラスの向こう。春の光りの中で子供たちが楽しそうにはしゃいでいる。ゴシック建築概論(黒くてやたら分厚い本)をバタムと閉じて棚に戻すと、目を閉じた。
退廃の音が鳴っている。
Brian Mayのギターは本当にゴシックだな。
てをとりあってこのままいこう
あいするひとよ
しずかなよいにひかりをともし
いとしきおしえをいだき
再生に満ちあふれたFreddiの声の裏で。
甘く危険な退廃がうねっている。
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