2015年4月20日月曜日

脳内円卓会議


分厚いオーク材のドア。
その前で深呼吸。
ノブを掴む手前で一瞬ためらう。
・・が、つかむ。
開ける。

ガチャリ。
「失礼しますっ !」

腰までお辞儀。
顔を上げると、すでにお歴々はめいめいの格好で僕を待っていた。大きな丸テーブルに4人。足をテーブルに上げて腕組みするもの。耳をほじるもの。猛獣のような笑みでニヤニヤするもの。ふてくされたように頬杖つくもの。いつもの面々。

フル出席だ。
手が汗ばむ。

教育係長「おー。で?今日の議題は?」

横浜所長「こっちは忙しいんだからよ」

水戸所長「んだよ、グダグダすっなよ」

家具屋社長「・・・」

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僕はサラリーマンでした。いわゆる帝王学的な教育を受けていません。だから小さい会社でも親父の背中を見て育ってきた2代目や3代目の社長さんを見て、羨ましいな、と思うことがたびたびあります。

創業者というのは、きっと何らか特殊な人たちなのだと思います。それは、単純に優れているというのではなく、偏執的なまでに満足を得られない人だったり、異常に粘り強い人だったりという意味で特殊なのです。頭がいいというのとはちょっと違いますね。むしろある意味、頭が悪い人の方が多いんじゃないかな。でもその分タフですね。しかし、というか、だから、前例のない難局の突発的な対処にはちょっと弱い側面があります。

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「・・といわけで、同業他社が当社の本丸事業にあたる・・・の競合部署を新設いたしまして・・・対抗案として・・・・で行こうと考えております。過去の数値データ、新規事業案、人事構想はお手元の計画書の・・・そして最後のページに本件にかかる費用、稟議書を添付してあります」

教育係長「お前、バカのくせにこういうの作るのはうまいんだよな。だけどな、この新規事業案な、インパクトが足りないんだよ。インパクト。分かる?結局仕事なんてインパクトだぞ?」

横浜所長「やってみりゃええ。が、ちと待て。お前根回しをしたか?俺らじゃねーッ、部下の根回ししたかって聞いてんだよ?あ?そうか・・じゃあメーカーは?・・てめー広島しっかりおさえてんのか?こっちゃ奴らの動き全部耳に入ってんだよ。人だいじにせー人を!!」

水戸所長「あよ、おめ頭だいじけ?はあ、いつも言ってっぺよ。こんページのここ、数字があめーんだよ。ほんとにきくじゃねーきこだな、あ?でれすけがっっ。過去数字うっちゃんな。そこだけはきーつけー。ほかは・・はあ・・まあよがっぺよ」

家具屋社長「これはだめだな。何から何までだめだ。考えが足りない。チャラっと上を撫でてる報告書だな。もっと考えるといい。いいか・・考えて考えてこれでいいと思っても、もう一度考えろ」

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そして創業者に圧倒的に足りないもの。それは上司です。確かに事業継承者だって社長となれば、その上に上司はいませんね。でも、先代の部下が番頭として残っていたり、なによりも過去に積み重ねた知識が上司の代わりに難局を指南してくれたりします。

その昔、難局に頭を抱えて、誰にも相談できないことがありました。その時、僕はふとある方法を思いついたのです。

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そうだ。
過去の上司に相談しよう。
脳内会議だ!

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自慢ではないが僕ほど優秀な上司に恵まれた人はいないんじゃないかと思う時があります。そして、数いる上司の内、ある4人は、はっきりいって苛烈激烈変人上司たちで、今考えてもみな戦国大名並みに迫力がありました。仕事とあれば三度の飯や女房子供を文字通り忘れ去ることができる人たち。まあ、それを賛美しているわけではないんですが。

僕は、あまりにも濃い時間を彼らと過ごしたので、脳内で何かを問いかけると、彼らはまるで今ここにいるかのように鮮烈に喋り始めます。過去のさまざまな体験で、それぞれが何を言うか、どんな反応を示すか、大抵想像がつくということですね。それはいい、とか、ここがダメだとか。そして、たいてい叱られます。

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「えー、先日の会議における事案の報告なんですけど・・・・という形で難局は乗り越えることができました。しかも事業推移は前にも増して好調に伸びており、今期は・・・」

教育係長「良かったじゃねーか。俺のおかげだな」

横浜所長「あほ。嬉しそうな顔してんじゃねーよ」

水戸所長「ふん。あーけったりー」

家具屋社長「次だ、次。終わったら次」

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はは。
ありがとうございます。

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おわり。

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