2017年7月14日金曜日

矜持はいつも足を引く


矜持
読み: きょうじ、きんじ
意味: 自分の能力を優れたものとして誇る気持ち。自負。プライド。
例 : 「矜持を傷つけられる」



自分ってこうだよなあとか、自分の会社の筋はこれだよねとか。矜持を持って働くのは素晴らしいことだと思います。他者(社)との(能力的)差異は、僕らに生きる活力を与えてくれます。でも、その感情には落とし穴があるのも事実ですね。

例えば、
1 そもそもそれ自体が勘違いである場合。
2 時とともにその能力が通用しなくなっている場合。

1は単なる勘違いちゃんだからどうでもいいんですけど。この2は悲劇ですね。自分は得意満面なのに、周りは、ああ痛々しい・・。と思って見ているケース。特にもともと持っていた能力が時代の変化の中で通用しなくなっているのに、自分自身それに気づかず名門を気取っている場合などは、見ている側は、失笑するというより、ハラハラした気持ちになります。

昨今の日本の家電メーカーなどはその例だと思いますが、家具業界にも居ますね。個人にも会社にもその例は散見します。うわー、もう打つ手なしだな。と思わざるを得ない会社だってありますよ。大抵そういうところは、自分の矜持を守るために必死で自分自身をごまかします。たくさんの嘘の魔法を自分にかけ続けている。

ひるがえって僕や自分の会社はどうかと見直すと・・・。ありますね!! そうなる可能性の芽はいくつも見えてきます。おお怖い。

だって、辞典の例文が「矜持を傷つけられる」だもんな。そもそも「矜持」ってのは危うい感情なんでしょうね。

いつも公平な視点で自分を見つめる。時には矜持を捨てて新規案件に当たる。特に今の時代はそうしないと生き残れないのでしょう。

人間は大きく二つに分けられる。
変われる人間と変われない人間だ。

いつも前者で在り続けたいものです。















(仕事場にて)







2017年7月12日水曜日

普通の椅子

普通の椅子ってどんな椅子だろうって最近よく考える。素材とか作りとかデザインだって普通の椅子。普通すぎて誰かの目に入っても、誰の心にも残らない。それは少し悲しいことだけど、なぜかどこか暖かい。

そんな椅子をデザインしてみたい。

に寝て夕方起きる。半分寝ぼけた頭でスケッチしたらそんな椅子が出て来るのかもしれないですね。



2017年7月9日日曜日

デッサン大好き

家具デザインは、いつも、ラフデッサンから始めます(あたりまえかな?)

思いついたら自転車に乗っていようが、会議中だろうが、寝てようが?おかまいなしにスケッチブックを開きます。あと回しにして忘れちゃうのが一番怖いんですね。そんなわけで、身の回りには、たくさんの使用済みスケッチブックがあるわけです。

他のデザイナーさんはどんな手法で家具デザインをしてるんだろ?

まーいっか、そんなのどうでも。

ちなみに、僕はデッサン、ドヘタです。日原さんとかすごく上手い。神レベル。


(写真は今取り組んでるボードの背板のラフデザイン)

2017年7月3日月曜日

制服


制服
(オマージュ) 




高校最後の日の朝。私は開いた目をもう一度、ぎゅっとつむった。胸にチリチリと疼痛が走っている。目をつむったまま起き上がり、大きく息を吸い込んだ。その息をゆっくり吐きながら、目を開ける。

窓の外は雨だった。

最後の制服を着た。
台所で食パンを焼く。
父と母は旅行に行っている。

いいの、二人で楽しんできて。小学生とか中学生じゃないんだから来なくていいよ。そう言ったのは私だ。よかったと思う。今朝は一人でよかった。

玄関の鍵を閉めた。カチャリと乾いた音がした。傘を開いた。雨・・霧雨。 海沿いの家を出て、海沿いの高校に通う毎日。それも今日で終わる。桜が咲く頃は一人で東京に行く。三年間好きだった人とも今日で最後。

海岸通りを横切った。

海を見よう。

まだ時間が早いからちょっとだけなら大丈夫。
松林を抜ける。
潮騒が聞こえてくる。

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青い海に細かい雨が吸い込まれていく。私はそれをボンヤリ見つめている。小さく寄せては返す波の音を聞きながら、告白しよう、と決心した。カバンを開けてペンケースを開いた。ノートの端に自分のアドレスを書いた。その小さな紙片を握りしめて、私は、もう一度世界を見渡した。

私は、とても大きくて青い青い世界にいた。

お前は可愛い顔してんだからもっと笑えよ。ちがうって、もっと口を横に引くんだよ、こうやって、な? あの日以来三年間、この魔法が解けることはなかった。でもそれ以上は、何も起こらない何もない時間だった。こんな退屈で、つまらない日々に言葉を送るとしたら、なんて言えばいいんだろう。わからない。それでも・・・と思う。私は、この世界を終わらせたくない。このままずっと続いていて欲しいと思っている。どうしてだろう。今日が終わればその答えが分かるのだろうか。その言葉を見つけることができるのだろうか。 

そして最後の瞬間はやってくる。

『卒業証書抱いた、傘の波に紛れながら、自然にあなたの横、並ぶように歩いてたの』

声をかけなくちゃ。自分の心臓の音しか聞こえない。講堂から正門までの距離が永遠に感じられた。

湿った廊下の臭い。
校庭の光と影。
窓際の席から見えた海の色。

たくさんの思い出が頭をよぎる。

テスト前のノート。
遠くに聞こえるブラスバンド。
重いスカート。
財布に隠した写真。
都会に憧れた私。

正門が近づいてくる。傘の柄を握った右手には、雨に濡れたノートの端。正門の桜の木。あそこで言おう。あの大きな桜の下で。

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でも、結局、私の口が開くことはなかった。

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あの人を好きだった日々。それはこのままでいい。無理やり決着をつけるなんて、私にはできない。私は学校と家の途中の道に座り込んで、泣いた。告白できなかったことが悲しかったのではない。失ってようやく気づいたからだ。私が、本当はとても眩しい季節に居たんだということに。そして、それを取り戻すことはもう二度とできないんだということに。

家に帰ると、一人ぼっちの静かな部屋で、私は脱いだ制服を丁寧にたたんだ。

ありがとう、ありがとうって、自分の口が何度もそう呟いていた。

パタリ。

最後にクローゼットを閉めた音は、遥かな月日が経った今でも、はっきりと耳の奥に残っている。

口を横に引いて笑えるようになった今でも・・・

あの青い青い海の色とともに。




Webマガジン コラージより


http://collaj.jp/



2017年6月3日土曜日

虹色かぶとむし






雪というものがあるらしい。その雪というものを見たかっただけなのだ。でも私の体は、今やもう、ちょっとも動かない。夏の終わりの風の中。私はゆっくりと私の終わりを迎えている。私は祈った。誰か。私の夢を・・・。

大きな木の下にポトリと落ちたかぶとむしの卵。殻を割って、僕はぼんやりと風の匂いをかぐと、すぐに、むぐむぐと土を掘りはじめた。かすかな手足で何センチもぐっただろう。僕はぐったりして体を動かすのをやめた。まわりの兄弟たちも動かない。みんなここで冬を越すのだ。

ザクッザクッと音がした。尾の白い鳥が僕のまわりの土をついばんでいる。そばにいた兄弟が土から掘り起こされて鳥のくちばしに咥えられた。兄弟は悲しそうな顔で僕を見ていた。僕はしびれた手足をもう一度動かした。もっと奥へ。鳥のくちばしの届かないところへ。生まれたばかりの僕の記憶。あるはずのない過去の記憶。僕は雪を見たいんだ。生まれたばかりの僕がなぜそう思ったのかはわからない。とにかくそう思った。僕の手足は兄弟のそれよりも、ほんの少しだけ長かったみたいだ。それが命を先へつないだ。僕は生き残った。

時間がおぼろげに過ぎていく。ある日、土の中で声がする。もぐらが僕を見ていた。やあ。もぐらが言った。こんにちは。僕は答えた。あなたは誰?? 私が誰というよりも、私は君のことを知ってるよ。もぐらが鼻をひくひくさせて言った。ぼくのこと? そうさ。正確に言うと君のことではなくて、君のお父さんのことだけどね。何を知ってるの? 君は虹色かぶとむしさ。虹色かぶとむし?? そうだ。普通のかぶとむしとは違うのさ。君はきっと雪をみたいんだろう?? なんで知っているの? 私はもうずいぶん長く生きている。だから、大抵のことは知っているのさ。あの・・もぐらさん、僕は普通とどう違うの?? もぐらはちょっと言葉に詰まった。そして、ふいっと興味をなくしたかのように僕に背を向けて、知らないよと言った。僕が太陽を見ることができないのと同じで、君も雪を見ることなんてできないのさ。

それでも僕は嬉しかった。僕は僕を知った。虹色かぶとむし。それが僕だ。僕はうきうきして、体を伸ばしたり丸めたりした。僕は虹色かぶとむしで、いつか雪を見るんだ。それが僕なんだ。もぐらは無理だと言ったけど、きっと僕にはそれができる。なぜなら僕が虹色かぶとむしだからだ。

時間がおぼろげに過ぎていく。ある日、土の上で声がした。おかしいなあ、この辺に埋めといたはずなんだけどなあ。ザクッザクッ。あたりの土が掘られていく。あ、あったあった。崩れた土の隙間からしまリスが見えた。どんぐりを胸に抱えていた。おや?? しまリスが僕をのぞきこんだ。君は・・。しまリスが首をかしげた。虹色かぶとむしです!! 僕は胸を張って答えた。ふーん。雪を見るために生まれてきました!! リスが前歯をカチカチさせて笑った。それはとても無理だと思うよ。どうしてですか?? だってカブトムシは夏の終わりに死ぬものだからさ。そう決まってるんだ。生きるものには運命というものがあるのさ。それに逆らっちゃぁ、いけないよ。しまリスがふと何かを思い出したように上を向いた。そういえば同じようなことを言っていたかぶとむしがいたなぁ。君のお父さんかい?? 僕のおとうさん・・・。彼も自分のことを虹色かぶとむしだって言っていたよ。僕のおとうさんは雪を見たの?? しまリスは口を曲げながらそれに答えた。いや。普通に死んだよ。夏の終わりに。僕はカッとなった。そんなの嘘だ!!! 嘘に決まってる!!! 僕は体を反転させた。土を掘った。だって虹色カブトムシなんだぞ。普通とは違うんだ。特別なんだ。僕はがむしゃらに土を掘った。おおい。後ろでしまリスの声がする。あまり下まで潜ると出てこれなくなるぞ。うるさいっ。僕は掘った。掘って掘って掘りまくった。気づくと土の上の音がまったく聞こえないところまで来た。土の中はシーンと静まり返っている。いいさ。僕は特別な虹色かぶとむしなんだから、特別深いところまでもぐっていいんだ。

時間がおぼろげに過ぎていく。ある日僕の体が硬くなっていた。どうしたんだろう。なにかがおかしい。しだいにあたたかい気持ちになってきた。おかしいけど、どうやらこれは悪いことじゃないみたいだぞ。僕は今なにか新しい成長しているんだ。僕は虹色かぶとむし。ゆきを・・みる・・んだ・・・。

そして僕は蛹になった。

僕が生まれて、僕が死ぬ、とてもありふれた運命、そのさいごのさいごに、夢はあるのでしょうか愛はあるのでしょうか希望はあるのでしょうか。

ある日、背中がピリリと破けた。ついに僕は大人になるんだ。僕は土をかき分けた。地上へ!! 深くまでもぐっていたからとても大変だった。けれど、これだけの長い時間を僕は待ったんだ。こんなのなんでもない!! へっちゃらだ!! 僕は地上に向かってあらん限りの力を振り絞った。最後の土塊をかき分けた時、僕は虹色の羽を大きく開いた。見てくれ、世界よ、これが僕だ。僕は虹色かぶとむしだ!! よし飛ぶぞ。羽を震わせた。しかしうまくできなかった。体が動かない。しょうがないから、僕はもぞもぞと足を動かして前進した。目の前の大きな木にしがみついて、登って行った。僕はあたりを見回した。どうやらこの世界は、土の中でみんなに聞いていた世界と、だいぶ違うようだった。木に緑の葉が付いていなかった。太陽が熱くなかった。風が冷たかった。そうだ。僕は夏を通り越して生まれてしまったのだ。

それでも。ずいぶん経っても僕は生きていた。木の葉陰でひっそりと生きていた。毎日がとてもとても苦しかった。僕は虹色かぶとむしだから、生命力が強い。だから苦しい世界で死ぬことも許されなかった。冷たく凍った樹液をなんとか啜りながら僕はつらい毎日過ごした。ねえ、僕はどうして夏を通り越してしまったんだろう。ある日、冬支度をしている一匹のアリに聞いてみた。知らないよ。アリは忙しくしていて、とてもそっけなかった。でもさ、雪を見たかったんだろ?? 神様がその願いを叶えてくれたんじゃないのかい?? 僕はそれを聞いて途方にくれた。それが本当なら、なんてことだ。僕は・・・そんな夢を見なければ良かった。だって毎日がこんなにもつらいんだ。

分厚い雲が空をおおっている。僕の体はあおむけにひっくり返っている。僕の6本の脚は鉤型にカチンと曲がり、もう動かない。ずっとさっきから、僕は空を見ている。少しづつ薄れていく意識の中で、鉛色の空を見ている。誰かに託された夢。その夢を引き継いで自分のものにした。本当だったら叶わない夢。残酷な夢。その夢が今叶おうとしている。でも・・・。今、僕は、この夢を叶わせてはいけないと思っている。この夢が叶ってしまったら、僕は、とても残酷な僕のこの人生を肯定してしまうことになるからだ。雪が来る前に。雪を見てしまう前に・・・僕は・・・死にたい。

一粒。
ホロリと雪が舞った。やがて、無数の白い結晶が天を埋め尽くす。虹色かぶとむしの濁った瞳に、固まった手足に、乾いた腹に雪が落ちる。

白くて優しくてあたたかい雪の中に。
虹色かぶとむしは深く深く落ちていく。


しまリスが雪の中にぴょこんと飛び出した。ふと思い出したように耳をそばだてた。雪の空を見上げた。そういえば、あいつ・・雪を見れたのかな。しかし、すぐに首を振った。まさかね。そう独り言を残して、しまリスは、白い野原に走り去って行った。



Webマガジン コラージより

http://collaj.jp/